高卒社会人でも弁護士になることができます。
司法試験は、超難関資格に位置づけられて高学歴の人がしのぎを削って受験しているイメージのある資格ですが、実は高卒でもチャレンジすることができます。法律家になるために、学歴が必ずないといけないというわけではありません。
この記事では、高卒社会人が働きながら司法試験に合格するための最短ルートや注意点を解説します。
高卒が弁護士になる最短ルート
弁護士になるには、予備試験に合格するか、法科大学院を卒業するかの2通りのルートがあります。働きながら高卒の方が最短で目指すには、予備試験経由のルートしかほぼ不可能です。
予備試験ルート
予備試験の内容は、ほとんど司法試験と同じです。短答試験、論文試験、口述試験の全てに合格すると最終合格です。
試験科目は、憲法・行政法・民法・民事訴訟法・会社法商法・刑法・刑事訴訟法・選択科目・一般教養です。口述では、民事実務・刑事実務・法曹倫理が問われます。
予備試験に合格すると、翌年の司法試験を受験することが出来ます。司法試験は、予備試験合格後5年以内に5回までの受験制限がありますが、予備試験合格者の司法試験合格率はなんと95%以上です。
予備に受かってしまえば、よっぽどのことがなければ司法試験にも合格します(それだけ予備試験の難易度が高いということですね)。
予備試験の内容について、詳細は別の記事でまとめていますので、こちらをご確認ください。
法科大学院(ロースクール)ルート ※大卒である必要
既修コースだと2年、未修コースだと3年通って卒業します。既修コースは法学部卒である必要はなく、各ローの入試に合格さえすれば、入学することができます。ただし大学院なので、入学するにはそもそも大卒者である必要があります。
高卒社会人の方が仕事を辞めて、大学受験をして4年通って卒業し、ローを受験して2~3年通ってようやく司法試験を受験するというルートは、学費も時間もかかる上にリスクしかなくてほとんどメリットがないと考えられますので、上述した予備試験ルートで司法試験を目指すことをおすすめします。
「大学院入試は簡単」なんでしょ?について
世間では、文系大学院は簡単で学歴ロンダリングできる等言われますが、それは実情を知らない方々の言葉です。
実際には、東大・京大・慶應大などの難関ロー(既修)の入試問題は、きちんと2~3年は法律を学習して受験勉強をしてこないと受かりません。
「ロー入試は簡単」という話を聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、それは「予備試験に合格するつもりで大学1年生から真剣に受験勉強してきた大学4年生にとっては簡単に感じる」という意味です。
既修ロー入試は、予備試験よりは確かにだいぶ簡単ですが、世の中一般のテストに比べて簡単という意味では全然ないので、内情を知らない方々の噂話に流されないようご注意ください。
未修コースであれば、小論文や英語、面接で入学できます…が、ほとんどの未修の学生は卒業後の司法試験で苦戦します。東大ローですら未修者の司法試験合格率はかなり渋いので、おすすめできません。
また、ロー経由の問題点は、2~3年通わなくてはならない点です。仕事を既にもっている社会人がロー経由で司法試験に挑戦しようとすると、仕事を辞める必要が出てきます。どのローも基本的には昼間に授業があり、大学と違って授業は出席必須なので、出ないと単位が取れず卒業できません。
会社を辞めて2~3年学生をし、ローを卒業したものの、最終的に司法試験に合格できなかった場合を考えると、社会人にとってロー経由はかなりリスクが大きいです。目指すのであれば、予備試験経由での司法試験を狙うことを強くおすすめします。
高卒社会人としての予備試験の現状
データで見る高卒の予備試験受験者数
最終学歴が高卒の方の予備試験受験者数は緩やかに増加傾向にあります。
下記は、法務省が公表している予備試験受験者数のデータを年毎にまとめたものです。最終合格者が出た場合、数字の後ろにカッコ書きで合格者数をつけています。
最終学歴別 | H30 | R1 | R2 | R3 | R4 |
---|---|---|---|---|---|
中学卒業(高校中退) | 26 | 27 | 29 | 29(2) | 49(2) |
高校卒業 | 166 | 182 | 153(4) | 198(5) | 236(1) |
短期大学在学中 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 |
短期大学中退 | 4 | 4 | 4 | 3 | 4 |
短期大学卒業 | 39 | 44 | 33 | 31 | 50 |
※データの作成元
・法務省 平成30年司法試験予備試験
・法務省 令和元年司法試験予備試験
・法務省 令和2年司法試験予備試験
・法務省 令和3年司法試験予備試験
・法務省 令和4年司法試験予備試験
社会人の予備試験合格率
受験生全体の合格率は3~4%、社会人に限っては2%程度です。この数値だけ見ても、予備試験がどれだけ難関試験なのか分かりますね。
難関ではありますが、それと同時に、令和2年~4年の間は毎年、最終学歴が高卒の方の最終合格者が出ていることも事実です。
高卒社会人が弁護士を目指す際の注意点・デメリット
勉強に真剣に取り組んできた大卒者がライバルのほとんど
中卒、高卒、短大卒の方々も予備試験を受験しているとはいっても、受験者のほとんどは大卒者か現役大学生・現役大学院生が占めています。
大卒の中でも、東大、京大、慶應大など超高学歴の方々が、学業の合間を縫って必死に勉強し、受験しに来ています。その方々がライバルになるので、かなり厳しい戦いになります。とりあえずいっぱい勉強したら受かるでしょう的なノリでは絶対に太刀打ちできません。
高卒という学歴自体が合格に不利に働くことは一切ありませんが、今まで厳しい難関大学受験の戦いを制してきた人たちが相手の中、高卒の方は受験の経験値がほとんどないことが多いです。
高校受験の経験がある…といっても、開成や麻布、桜蔭高校の中学受験を突破した経験があるならいざしらず、偏差値65程度の公立高校受験の経験程度では、本当にお話になりません。
だから無謀だと伝えたいわけではなく、受験の辛さが正確に想像できないくらい、ライバルに比べて「受験」に対する経験値不足であることを認識して、どう戦うか、戦略を考えるべきです。
受験は「正しい方向で」「大量に勉強する」ことが必要です。大卒者に比べて、勉強することに慣れていない高卒の方は、大量に勉強することには対応できても、「正しい方向で」が理解できていない可能性があります。いくら朝から晩まで3年間勉強し続けても、方向性が間違っていたら絶対に合格できません。
一人で学習を進めた場合、受験勉強の「方向」を間違えることが大いに考えられます。そこだけは十分注意して、努力を重ねてください。
手っ取り早いのは、予備校を利用して、予備校から渡されたテキストを予備校に言われたレベルで消化できるようにすることです。それに尽きます。
お金がもったいないと独学で進めようとする方がいらっしゃいますが、時間を無駄にする恐れが非常に高いです。たくさん時間を費やして、最終的に合格できないことの方がもったいなくありませんか?
高卒が弁護士になるメリット
年収はおそらくほぼ確定で今より上がる
こちらは日弁連が調査して公表したレポートを参考に作成した、弁護士の収入推移です。ざっくり、所得がサラリーマンでいう年収に該当すると思ってもらって良いかと思います。
年 | 収入の平均値 | 収入の中央値 | 所得の平均値 | 所得の中央値 |
---|---|---|---|---|
2000年 | 3,793 | 2,800 | ー | ー |
2010年 | 3,304 | 2,112 | 1,471 | 959 |
2020年 | 2,558 | 1,437 | 1,206 | 770 |
単位は「万円」。
一番新しい2020年を見てみると、平均値が1200万円・中央値が770万円です。平均値は超高額の年収を貰っている人の影響を受けてしまっているので(事務所経営している経営者弁護士の収入や、四大大手事務所のパートナーで年収が億単位になっている弁護士の収入が重み付いて反映されてしまっているということ)、中央値の方が一般的な弁護士の年収イメージを表しています。
弁護士になれば年収800万円程度は得られるイメージで、おおむね実情にも合っているかと思います。多いと感じるか少ないと感じるかは分かりませんが、起業していたり大手企業で出世していたり…そういうタイプではない高卒社会人の方にとっては、年収が上がる見込みが高いかと思います(高卒社会人の平均年収は約274万円。参考:厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」)。
※弁護士の収入は、事務所によって異なります。事務所から頼まれる案件の他に、個人案件を受ければその金額を全て貰える事務所もあれば、何%という形でフィーを貰える所、貰えないがボーナスに反映してくれる所、一切何も貰えない所、そもそも個人案件を受けることが禁止されている所など様々です。インセンティブで稼げるような給与形態になっている事務所であれば、さらに高額の年収を期待することもできます。
定年が関係ないので働き続けることができる
弁護士には定年がありません。70歳、80歳になっても、自分が現役を続ける意思があれば、続けることができます。また、仕事自体もなくなる心配は当分ありません。
AIの進化で無くなるのでは…と言われていますが、生きている間にそこまでの変革が起こるとは考えにくいです。いまだに裁判のやり取りは書面で、なんとFAXが使われています。
AIの影響はそのうち受けるでしょうが、それによって業界が変革するにはまだまだ時間がかかる界隈です。
圧倒的に社会的信用が上がる
弁護士になると、明らかに社会的信用が上がります。「高卒」という目線から、「司法試験を突破した弁護士である」という見られ方になり、ある意味周囲からのステータスは間違いなく上がります。
メリットとしてはそれだけではなくて、銀行融資を受ける際、家を借りる際、事業を始める際、職業欄が「弁護士」というだけで、印象・立場は良くなります。
高卒社会人受験生の声
――予備試験の受験を決意した背景を教えてください
高校卒業後から社会人として働いてきましたが、日々の業務の中で法律を意識することが多く、次第に興味を持つようになりました。
本当は大学受験をしたかったのですが、家庭の経済的事情もあり、進学は諦めて働きに出た過去があります。お恥ずかしい話ですが、いわゆるエリート的な職業にずっと憧れがありました。最終学歴が高卒であることも、本当は気にしています。
弁護士になることが出来れば、学歴がなくても社会的な地位は高くなり、信用もより得られ易くなります。非常に魅力的な職業だと思います。
私は社会人歴10年ですが、ギリギリまだ20代です。仕事に余裕が出てきたこともあり、今挑戦しなければ一生後悔すると思い、予備試験の受験を決意しました。
――予備試験の受験対策はどのように行っていますか?学習方法を教えてください
予備校のオンライン授業を駆使して学習しています。使っているのは予備校からもらったテキストのみです。
予備試験の学習を始めてみて驚いたのですが、テキスト・参考書・基本書・判例集等々、書店には法律関連の市販本が非常にたくさんあります。ネットでは色んな人が、あの本はいいけどこの本はダメ。この本を読んでいたら受からない…等々、さまざまな噂が飛び交っていて混乱します。
自分はかなり惑わされてしまうタイプなので、一切そういった情報を見るのをやめて、予備校のテキストだけを完全に消化する方針で学習しています。
どのみち、たくさんの書籍を学びきることは自分にはできないので、冊数を絞ってそれを完璧にする、というスタイルを意識して、日々頑張ることにしています。
――高卒社会人として予備試験に挑戦するにあたって、今まで直面した困難はありましたか
学歴や経歴に対する偏見や固定観念との戦いは避けられませんでした。私が気にしすぎてしまう性格であったことも関係していると思いますが、やはり「お前が司法試験!?笑 無理だろ」という反応が多く、もはや周囲には必要性が無い限りは挑戦していることを黙っています(家族にはきちんと説明済みです)。
他人からわざわざ言われなくても、無謀な挑戦であることは自分でも重々承知しています。その上で、人生死ぬ間際に「もっと頑張ればよかった」等と自分が後悔しないために、頑張ることを決めたんです。
嫌な反応を貰ってしまった時は、自分自身の成長や弁護士としての資質を高めるための精神的修行だ、と自分に言い聞かせることで(笑)何とか乗り切っています。
高卒が司法試験に合格した後の就職先
司法試験に合格した後のキャリアパスは多岐にわたります。多くの合格者は司法修習を経て、弁護士、検察官、裁判官のいずれかの職に就きます。
特に弁護士としてのキャリアでは、大手や中堅の法律事務所に所属することから、独立して自らの事務所を開設するまでの幅広い選択肢があります。
高卒の場合、学歴や経歴に対する偏見が就職の際に一定の障壁となる可能性はありますが、予備試験経由で司法試験に受かったのにどこの事務所にも就職できない事態が起こることはさすがに無いと考えられます。
「予備試験合格」という実績は、優秀者の勲章です。高卒だと、大手の巨大事務所への就職は初手では無理ですが、街弁や一般的な事務所で社会人経験のある方の弁護士は需要があります。
経歴や経験を活かし、特定の分野や社会人として関わっていた業界に特化したサービスを提供することで、独自のキャリアを築いていくことは十分可能です。
例えば、高卒者が多く働く業界であれば、大卒・院卒のキラキラエリートには心を開いてくれない現場の方々も多いかもしれません。そういった場所には、高卒弁護士にしか出来ない仕事があるかもしれません。ビジネスチャンスはいくらでもあります。
予備試験・司法試験について、もっと知りたい方はこちらの記事にまとめています。
予備試験の予備校選びについては、こちらの記事にまとめています。